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売出価格と成約価格はなぜ離れるのか —— 公開データが示すのは「成約した価格」

相場を調べていると、三つの違う価格が同じ「価格」という言葉で出てきます。査定価格、売出価格、成約価格です。この三つは生まれる場所も決める人も違い、離れていること自体は珍しくありません。先に、この記事でいちばん伝えたいことを書きます。当サイトの相場ページに載っている数値は、実際に成立した取引の価格、つまり成約価格を集計したものです。売出価格は公開データに含まれていないため、当サイトには載っていませんし、売出価格と成約価格の差を当サイトが算出することもできません。この前提を置いたうえで、なぜ二つの価格が離れるのかを構造から説明します。

三つの価格は、それぞれどこで生まれるのか

  • 査定価格。 不動産会社が「この物件はこのくらいの価格で売れる見込み」として示す意見です。宅地建物取引業法は、宅地建物取引業者が媒介契約にあたって売買すべき価額について意見を述べるときは、その根拠を明らかにしなければならないと定めています(第34条の2第2項)。査定価格には、根拠の説明が伴うことが前提になっています。
  • 売出価格。 売主が決める価格です。査定価格を参考にしますが、査定価格そのものではありません。売主の希望、売却を急ぐかどうか、住宅ローンの残高などが反映されます。
  • 成約価格。 売主と買主が合意して、売買契約に書かれる価格です。国土交通省が公開する取引価格の情報に残るのは、この価格です。

査定は各不動産会社が行うものであり、当サイトは統計情報の提供と査定サービスの紹介を行っています。当サイトが個別の物件の価格を示すことはありません。

なぜ売出価格は成約価格より高いところから始まりやすいのか

構造を四つ挙げます。

第一に、価格は下げる方向にしか動かしにくい。 いったん売り出した価格を途中で高くすることは、実務上ほとんどありません。売主はこれを分かっているので、最初の価格は「ここから下げてもよい」余地を含めて置かれます。

第二に、査定価格が生まれる場面に競争がある。 売主は複数の会社に査定を頼み、その中から媒介を任せる会社を選びます。会社の側から見ると、査定価格が高いほど選ばれやすい構造があります。この構造の中で出た査定価格を土台にすると、売出価格は成約の見込みより高いところから始まりやすくなります。査定価格が高い会社が高く売る会社であるとは限らない、という話は別の記事で扱います。

第三に、交渉の余地が織り込まれる。 買主からの価格交渉を見越して、売出価格にはあらかじめ幅が持たされることがあります。

第四に、売主と買主で見ている情報が違う。 売主は自分の物件を一つだけ見ています。買主は同じ地域の複数の物件を横に並べて見ています。比較している側のほうが、価格の水準に厳しくなります。

離れること自体は異常ではありません。問題になるのは、離れたまま時間が過ぎ、売出価格を見直す時期を決めていなかった場合です。

乖離はどのくらいあるのか

この問いに、当サイトは数字で答えません。売出価格が公開データに含まれていないため、売出価格と成約価格の差を当サイトの集計から出すことはできないからです。他の情報源の数字を当サイトの数字と混ぜて引用することもしません。

代わりに見ておきたいのは、成約価格そのものの「幅」です。例として府中市のマンションを引きます。直近1年(2025年4月〜2026年3月)の取引168件で、売却価格の中央値は3,900万円です。直近8四半期(2024年4月〜2026年3月)の取引383件で、価格の低い順に並べたときの下から25%目から75%目までの範囲、つまり中央の50%は2,450万円〜4,800万円に収まります。上位25%と下位25%で約2倍の開きがあります。同じ市の同じ種別の中でも、成約価格はこれだけの幅で分布しています。

「売出価格と成約価格が離れる」という話を聞くとき、実は「成約価格そのものが、物件の条件によって大きく違う」という事実が隠れています。売出価格を相場の一点と比べるのではなく、自分の物件の条件で見た成約価格の幅と比べる、というのが公開データの使い方です。

公開データの成約価格を読むときの三つの注意

第一に、公表は取引から遅れます。 国土交通省が取引の情報を公開するのは取引が行われた後で、公表が取引から数ヶ月遅れるため、直近の取引は集計に含まれません。府中市のマンションの場合、取引時期は2024年4月〜2026年3月、国土交通省の公表は2026年7月です。今売り出されている物件と、公開データの取引時期の間には、この分のずれがあります。

第二に、収録されている価格は丸い単位に寄っています。 公開データの価格は100万円・1,000万円の単位に寄っており、細かい端数まで記録されたものではないと考えて読む必要があります。丸めの扱いは、記事末尾に案内している「数字の根拠と集計方法」のページに記載しています。

第三に、中央値は代表値の一つにすぎません。 同じ市の中でも、面積帯と築年帯によって中央値は違います。府中市のマンションでは、専有面積50〜70㎡の帯で、築25年以上の中央値は築5年未満の62%の水準です(築5年未満10件・築25年以上89件)。市全体の中央値と自分の物件を直接比べると、この差を見落とします。

査定価格は成約価格の予測なのか

本来はそうあるべきものですが、上に書いた競争の構造があるため、常にそうなっているとは限りません。査定価格を受け取ったら、その価格が「成約の見込み」として出されたのか、「この価格で売り出してみましょう」という提案として出されたのかを、言葉で確かめておくと、あとで売出価格を見直すときの基準になります。根拠の説明を求めることは、法律が前提としている手順であって、失礼にはあたりません。

売出価格を決めるとき、公開データをどう使うか

順序を書きます。

  1. 自分の物件が入る区分の成約価格を見る。 市区町村と種別のページで、面積×築年数の表から自分のマスを探します。戸建てなら世田谷区の戸建てのように種別ごとにページが分かれています。神奈川県や大阪府にも、横浜市港北区のマンション、大阪市北区のマンションといった形でページがあります。
  2. 複数社の査定価格と、その根拠を並べる。 査定価格には根拠の説明が伴います。価格の高低より、根拠の説明が具体的かどうかを比べます。
  3. 売出価格を「成約価格の幅のどこに置くか」で決める。 自分の区分の中央の50%の範囲より上に置くなら、その理由を自分の言葉で説明できるかを確かめます。
  4. 見直す時期を先に決める。 売り出してからの反応を見て価格を見直す時期を、売り出す前に決めておきます。離れた価格のまま時間が過ぎることを防ぐ、いちばん単純な方法です。

売出価格を下げることは失敗なのか

失敗ではありません。上に書いたとおり、売出価格は下げる方向にしか動かしにくいため、最初の価格に幅を持たせること自体が実務上の慣行です。見直しが起きるのは構造上の帰結であって、見直しの時期と幅を決めていなかったことのほうが問題になります。成約価格の幅を先に見ておけば、見直しの着地点も先に見えます。

編集長の見方

売出価格と成約価格の差は、売主が欲張ったから生まれる、という説明をよく見ます。私はそう読んでいません。差の一部は、査定価格が生まれる場面の構造から来ています。だから、売主にできることは「欲張らない」ことではなく、査定価格の高さではなく根拠を比べること、そして売出価格を成約価格の幅と照らして置くことだと考えています。公開データはそのための物差しであって、売出価格を決めてくれるものではありません。

この記事で参照した数値について

府中市の数値は、国土交通省 不動産情報ライブラリの公開データを当サイトが集計した値です。数値の算出方法と掲載基準は数字の根拠と集計方法に記載しています。個別の契約への当てはめは、宅地建物取引業者や専門家にご確認ください。

出典:国土交通省 不動産情報ライブラリ (https://www.reinfolib.mlit.go.jp/)

「不動産価格(取引価格・成約価格)情報」(国土交通省)をもとに合同会社サイバーオプテーニ作成(サービス名: イエソウバ)。準拠ライセンス: 公共データ利用規約(第1.0版)。

本ページの相場情報は公開データを統計処理した参考値であり、個別物件の査定額・成約価格を保証するものではありません。